僕の玩具
「お兄様」
柔らかい声で呼ばれて、ルルーシュは声の主を振り向いた。
「ナナリー・・・」
可愛い妹が、振り向いたルルーシュの顔をじっと見つめている。
「どうしたんだい?」
「お兄様今日はずいぶんとご機嫌なのですね」
ルルーシュに向かってにっこりと微笑んだ妹の視線が、次の瞬間には広い室内を見回すように動いていた。
そして、一通り見渡してから不思議そうに首を傾げて、
「あら?さきほどクロヴィスお兄様がいらっしゃっていたようですけど・・・?」
「ああ、さっき帰ったよ」
「まぁ、チェスもなさらずに?どうかなさったのかしら?」
不思議がる妹の頭を撫でて、ルルーシュは僅かに俯いてふっと口端に微笑を浮かべた。
「まぁ・・・お兄様ってばまたクロヴィスお兄様で遊んでいらっしゃったのね?」
ルルーシュがそういった笑みを見せるのはたいていの場合よからぬコトをたくらんでいる時が多い。
というよりも、クロヴィスを玩具にして楽しんでいるときによく見せる表情だった。
人の心を掌握することに長けたルルーシュにとって、クロヴィスほど単純明快で扱いやすい玩具はない。
いつもルルーシュの傍にいる幼いナナリーはそれを誰よりも理解していた。
「困ったお兄様・・・」
兄のご機嫌な理由を悟った、小さな妹は困ったような複雑な表情を浮かべた。
「シュナイゼル殿下、どうかクロヴィス様をお止めください!私どもではもう・・・」
切羽詰ったような声嘆願し、で第二皇子のシュナイゼル前にひれ伏しているのはクロヴィスの側近中の側近だった。
結局、クロヴィスの突然の性転換宣言のあと、その経緯をクロヴィス本人から聞かされた臣下一同は、散々に協議した結果第二皇子のシュナイゼルにクロヴィスを説得してもらうことにしたのである。
本来なら、凶事の大元であるルルーシュに苦言を呈するのが筋なのだろうが、ルルーシュが一筋縄ではいかない人物であることを、クロヴィスの臣下たちは嫌というほど理解している。
まだ幼い第十一皇子にはこれまでにも何度も「クロヴィスさまでお遊びになるのはお止めください」と提言をしてきたのだが、ルルーシュの子供とは思えない巧みな口述に言い負かされて、結局シュナイゼルに泣きつく破目になるのだ。
毎度毎度のことに、「今度はどうしたんだい?」と、少しも慌てることのない落ち着いた声で、シュナイゼルが目の前に平伏しているクロヴィスの臣下に事情を問えば、額の汗を拭きつつこれまでの経緯を真剣な顔で説明しているその男には悪いが、思わず笑いがこみ上げてきてしまうのは仕方のないことだろう。
「・・・殿下、笑い事ではございません!」
クロヴィスの側近としてはクロヴィスの突然の性転換発言はこれ以上ない大事である。
「・・・あぁ、すまなかった。そうだね、笑い事ではすまないね。大事な弟が突然妹になってしまったら・・・」
そこまで言って、またシュナイゼルはこみ上げてきた笑いを必死に堪えた。
「殿下!」
「わかったわかった。私がクロヴィスを説得してみるよ」
「お願いいたします」
必死に笑いを噛み殺してそう言ったシュナイゼルの言葉に縋るしかないクロヴィスの側近のその男は目の前の救世主に深く頭を下げた。
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